名古屋のスタートアップ市場には、投資するだけの価値と未来がある。
株式会社MTG Ventures 代表取締役
藤田豪氏
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東京とはひと味違うポシビリティが、この街にはある。
Q.御社はベンチャーキャピタルをされていますが、どのような特徴がありますか?また、名古屋の産業とスタートアップとの出会いをどのように作っているのですか?
まず、我々のベンチャーキャピタルの特徴としては大きく2つあります。ひとつは親会社であるMTGがBEAUTYとWELLNESSを主力事業としているため、Beauty-tech、Wellness-tech、Food-tech、Sports-techを中心に投資活動をしていること。このジャンルを広くカバーする競合他社はあまり見当たりません。そしてもうひとつが、名古屋という土地でスタートアップを育てること。東京にはないポシビリティ(魅力)が、ここには間違いなくあります。
具体例を出すと、先日名古屋グランパスエイトさんと組んで、スタートアップのピッチをやらせて頂きました。スタートアップの提案相手はグランパス代表の小西さん。こういった権限のある社長、しかもスポーツクラブに直接提案できる機会というのは東京でも滅多にありません。全国から今回のピッチに向けてユニークなスタートアップが名古屋に集結しました。
ちなみにここで出てきたアイデアはどれも興味深いものばかりで、例えばヘリコプターシェアリングに繋げたビジネスも飛び出しました。名古屋駅前のミッドランドスクエアから豊田スタジアムまで、電車を乗り継いで行けば結構時間がかかります。でもヘリならたった10分。食事つきでの移動サービスとしてある程度高単価で販売した時に、ビジネスが成り立つと見込むわけです。そうすると、Jリーグ初の「ヘリで行く観戦ツアー」が実現する。ね? 面白いですよね。名古屋に限らず、プロチームは地方拠点が多いので、必ずアクセスの難しさや駐車場問題が発生します。その課題を解決するひとつとしてこうした案やMaaS関連が解決策になり得る。こういった、世の中を切り開いていくアイデアが求められるし、ウェルカムとされているのが今の名古屋なのです。
Q.投資をする上で、基準としていることはなんでしょう?
まず、今の時代、お金儲けだけでは出資金は集まりません。つまり「10年後にこれだけの利益が出るから投資してください」だけじゃダメなんです。この事業によって世の中をより良くしていきたい、という社会課題がベースにあることが大事。たとえば、自動運転に挑むスタートアップ企業が「交通事故が完全になくなる世の中に」というビジョンを掲げているように。名古屋に限らず、食糧問題や高齢化など世界的に様々な課題がある中で、何を解決していくベンチャーなのか、それをはっきり表現してほしい。
起業するというのは、大変なことです。サラリーマンの方が楽ですから。でも敢えて起業をして、仲間を作って一緒に大変なことを乗り越えながらやっていくには、どうしてもその課題を解決したいんだというパッションが大事になってきます。たとえば、実際にその課題で自身が悩んだ「原体験」のようなもの。強烈な原体験を持つ起業家は強いですよ。これまでの経験上、そういう起業家が伸びることは実感値としてあります。
とはいえ一方で時代は変化しています。原体験はなくてもいい、という起業家も出てきました。とにかく事業のPDCAを高速で回すのが得意で、学習して修正してサービスをどんどん良くしていける、という能力を持った人とかですね。最近はそういうタイプの起業家にも投資を始めました。私自身が新しい価値観に学びながら投資しています。
便利で暮らしやすくて高いコストパフォーマンス。
名古屋でビジネスをするメリットは大きい。
Q.これまでに、名古屋でどのくらい投資活動をされてきたんですか?
前職での仕事も含めると、18年、名古屋で投資活動をしてきました。これほど長く名古屋を拠点にしているベンチャーキャピタリストは世界中に私しかしないと自負しています。まあ、前職で赴任先が名古屋だとわかった時は「ベンチャーキャピタルなら東京なのに、なぜ名古屋でやらなくちゃならないんだ!」と腐りかけましたけどね(笑)。でも逆転の発想で、名古屋での投資の可能性を開拓し尽くして、徹底的に極めてやろうと気持ちを切り替えてやってきたんです。そしてその通り、視点を変えたら名古屋には大きなポテンシャルがありました。そして10年以上前にMTGの代表の松下に出会い「この人とこの先10年~20年、一緒に事業をやったら面白いのではないか」と確信したので2018年10月にMTGに参画し、 MTG Venturesを立ち上げました。
Q.事業をする場所としての名古屋の魅力は?
コスト観点でいえば、家賃は東京に比べて3割安です。固定費を圧縮できるから、立ち上げ期には名古屋で良いでしょう。東京で人材を採用できさえすれば、十分戦える。採用してリモートで働いてもらってもいい。また空港アクセスもいいので、アジアにもすぐ行けます。ビジネス上のメリットは大きいと思います。
暮らしやすさ、という点でも抜群ですね。私は前職時代に本社勤務の時期があり、東京でも4年ほど暮らしたことがあります。その頃と比較したら、通勤電車は混まないし、温泉も海も山も全部が近くにあって、子どもの医療費はかからないから子育てもしやすい。住みやすい名古屋で豊かな暮らしをして、東京は「時々行く場所」で十分ですよ。
あと、実は名古屋出身の起業家って多いんです。例えばメルカリの山田さんやVOYAGE GROUPの宇佐美さん、ABEJAの岡田さんなど。彼らのように東京の大学に出てそのまま東京で就職したり、起業した人が多いけれど、これからは戻ってくる人も増えるんじゃないかと予想しています。ベンチャーエコシステムができて、ベンチャーで働きたい若者が増えたら、そういう未来も十分にあり得ると思います。
すでに、起業するための環境は徐々に整ってきている。
Q.逆に、名古屋に足りないものはなんでしょう?
投資家目線で言えば、先ほどの話にもつながりますがスタートアップのエコシステムがまだ十分には構築されていないことです。でも、その土壌には徐々に耕されていて大きな可能性があります。スタートアップの資金調達ランキング上位にも名古屋の会社がはいってきました。また最近ではEXITに成功した経営者や事業継承で売却した方なども増え、いわゆるエンジェル投資家の方も急速に増えています。少しずつCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)も増えてきていますし、ここから数年はCVCが投資の中心になっていくと思います。現段階で、環境は徐々に整ってきています。
Q.藤田さんが名古屋に訪れた18年前からは、ずいぶん名古屋の投資環境が変わっているということですね
当地区は10%経済と言われるので毎年全国で100社の新規上場会社が出るとすれば、名古屋の規模なら本来10社ぐらいは出ないといけない計算になります。しかしながら、昔から年間に2~3社という出現率でした。自動車産業のピラミッド構造の中から上場を目指す会社が出ないという産業構造の問題や、堅実経営が多い為、上場に向かないといった土地柄もあったかもしれません。
でも、最近はどんどんチャレンジングな会社が出てきています。たとえば今年は上場会社が10社出ています。来年も10社ぐらいの予定で、過去最高です。2000年以降にできた会社も上場しています。名古屋は東京と違い、じわじわやっていきあまり大怪我することなく晩成するタイプの、堅実なスタートアップが多いですね。
Q.そんな機運の中で、藤田さんのミッションは?
名古屋という場所は、起業するための条件が揃いつつあります。あとは、リニア新幹線が開通する予定の8年後までに、ベンチャーエコシステム作りを完成させることです。「起業」に対するマインドセットを行い、働くことの選択肢に誰もが入れられるような環境をつくっていきます。製造業を核として堅実に力を積み上げてきた名古屋がよりよく変わり、時代を引っ張っていくために「スタートアップ」という要素が外せないという考えを、もっと強く啓発していくことだと思っています。
幸い長く名古屋にいていろんな分野の方々とのネットワークはできているので、一人でもスタートアップに挑戦する人が増えれば良いと思い、直接投資には関係のない相談などにも積極的に乗るようにしています。
名古屋に起業家マインドの種をまく。
Q.マインドや文化を作る、ということに投資されているんですね。視点が自社でなく、名古屋という土地にあると感じます。若い世代に対しても何か考えていることはありますか?
自分としては、「ベンチャーエコシステム」というインフラを作るつもりで投資活動や、それにまつわる仕事をしています。なごのキャンパスや、イノベーターズガレージでというインキュベーション施設で若者の起業塾でメンターとしての関わりを持つこともそのひとつ。名古屋という土地にベンチャーマインドを育てるための種まきをして、結果的に優秀な若者が増えれば企業としては採用の幅が広がります。成果が出るのは10年後かもしれないけれど、必ず結果はついてくる。とりあえずはインフラを整える人が必要なんです。そこを自分が担当する。できた後、みんなで盛り上がれればそれでいい。
日本には教育とエンタメの先駆けとしてキッザニアのような取り組みがあったり、全国レベルで見ると「vivita」という子供の新しい教育の場所があります。名古屋でもそんな骨組みを作りたいですね。小学生や中学生の頃から起業の話に触れたり、体験してみたりという機会を与えてあげて、大学生になった時に働き方の選択肢が増えている状態になっていると良いですよね。ひとつの人生の中で、職業がひとつという状態は時代遅れなので、稼げるライフワークを複数持つようになるでしょう。ただ、東京ではじわじわ広がってきた価値観も、名古屋だとまだ新しいこととして認識されているような気がします。そういうマインドセットなども、テレビ局さんなどと協働して土壌づくりを進めていきたい。それによって、製造業を中心とした大企業の中だけで働いていた実力ある若手が市場に飛び出し、エコシステムの構築を加速させてほしいですね。
自分としては、名古屋駅にリニアが開通する8年後をリミットとして見据えています。これまで以上に名古屋の立地環境が向上するタイミングに間に合わせたい。今の小学6年生が二十歳になるころ、名古屋のベンチャーエコシステムが世界的に誇れるものであってほしいですね。私はそこに向けて、芽吹きつつあるこの名古屋の市場を、さらに加速させていく投資活動をしていきます。勝算は十分にありますよ。