【番外編】イノベーションが生まれる街シアトル、シリコンバレー視察から見えてきたもの
株式会社エスケイワード 代表取締役 加藤啓介氏
名古屋市市民経済局 稲垣尚起・丹羽仁美
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本市産業の活性化に向けた取り組みの一環として、2019年11月「アメリカ経済交流ミッション」を実施し、シアトルを中心としたアメリカ西海岸を訪れ、現地企業との意見交換や視察を行いました。
このミッションがどのような取り組みだったのか。ミッションに参加された株式会社エスケイワード 代表取締役 加藤啓介氏を交え、舞台裏をお届けいたします。
イノベーションの創出がこの街にも必要
Q.今回「アメリカ経済交流ミッション」を企画・実施、参加された背景をお聞かせください。
市民経済局 丹羽(以下、丹羽):100年に一度の産業の大変革期である今、やはり名古屋エリアでもイノベーションの創出が必要だと感じています。市民経済局の中でもスタートアップの支援に力を入れていこうと考えていますので、これからAI、IoT、ICT技術等を活用した新規事業開発に力を入れようとしているスタートアップや中小企業の方と一緒に、イノベーションが生まれる場所を見たい、そこから学びたいという想いで企画がスタートしました。
企業の方々も、変わらなければならない、何か行動を起こさなければならないと焦りはあっても、まず何をしたらいいのか分からないのが現状なのかなと思うんです。やはり百聞は一見に如かずですから、参加者の方も含め現地に行ってヒントを得ていただきたいなと。
特にシアトルはもともとボーイング社を中心とした製造業の街だったところから、現在はAmazonやMicrosoftといった知識集約型産業が中心になっていることもあり、名古屋エリアのモデルになる可能性も感じていました。
市民経済局 稲垣(以下、稲垣):丹羽の説明に加えて、イノベーション創出の起爆剤であるスタートアップがどんどん生まれる地域のエコシステム(ビジネスの生態系)がどうなっているのか、行政としてもしっかり見ておきたい想いがありました。見てもいないものを語ることはできませんからね。
エスケイワード 加藤氏(以下、加藤):自社でも新規事業開発を推進していくにあたり、新規事業が生まれてくる環境をこの目で見たい、肌で感じたい、それが一番の想いで参加しました。検索をすれば何でも情報を取ることができる時代だからこそ、断片的な情報を得るのではなく、自らの目で見て情報を判断するベースを得たいなと。
イノベーションを助長する地域に揃う4つの機能
Q.現地のオープンイノベーションを促進するエコシステムについて気づいた点をシアトルと名古屋の産業構造の違いも交えてお聞かせください。
稲垣:ソフトウェア開発を中心とした知識集約型産業が既に現地のメイン産業になっている前提ですが、大企業からスタートアップへ、スタートアップからまた大企業に戻るといった人材の流動が高速サイクルで回っているようです。一つの企業での平均勤続年数が2年と聞きました。エンジニア等専門職であるが故かもしれませんが、自分のやりたいこと、スキル、キャリアにマッチする働く場所を個々人が自由に選択していて、日本との大きな違いを感じましたね。
加藤:金融支援の違いも大きいですね。ベンチャーキャピタルからシリコンバレーへの投資は年間5兆円、それに対して日本は全体で2千億円。25倍の差があるんですよね。お金さえあればスタートアップが育つわけではないですが、大きな差ですね。
このベンチャーキャピタルをはじめとした、スタートアップを支援する4つの機能、ベンチャーキャピタル、アクセラレーター、アカデミア、デザインファームが上手く作用している印象を受けましたね。
スタートアップを支援する4つの機能
丹羽:教育機関でも経営者等が教授を兼務しているところも多く、その教授がインキュベーション施設に出入りしていたりするので、学生時代からビジネスの感覚やイノベーションに通ずるオープンなマインドを持ちやすいのかもしれませんね。
稲垣:人材、企業、お金が揃う強い磁力みたいなものを感じましたね(笑)。その相乗効果でイノベーションが生まれていっている印象です。
行政が力を入れているのは、イノベーションにより生じた社会課題、例えば失業対策といった福祉政策でしたね。
失敗こそが学び
Q.現地の「地域」としての風土やカルチャーで気づいた点をお聞かせください。
丹羽:ベンチャーキャピタルの投資で見えたのは、何百社といる投資先の中で数社成功すればいい、と割り切っているところですね。失敗するスタートアップがあるのは織り込み済みというか。
稲垣:失敗したらそこで終了ではない、という風土はあるみたいですね。
丹羽:失敗しても何かそこから学んで次に活かせれば良い、そんな風土がありそうですね。
加藤:スタートアップに失敗し学んだ人が大企業への転職時に重用されることもあるみたいでしたね。
あと、語学と言うとちょっと違うのかもしれませんが、英語で発信することの重要性も感じました。どんなに英語が堪能な日本人であっても、プレゼンをしてみると他国の英語話者の1/3程度しか伝わらないそうです。
丹羽:良くも悪くも謙虚な日本人、と現地で聞きましたね・・・。
加藤:Plug and Playというスタートアップと大企業を結び付けるアクセラレーターの見学にも行ったのですが、日本企業はなかなか現地のスタートアップとマッチングが進まないそうです。現地のスタートアップに良いアイデアがあっても、日本企業が本社に承認を取る期間が長すぎてその間に他に取られてしまったり。スピード感も大切な要素ですね。やりたいことを明確にできていてそれを熱意持って伝えられるところに支援が集まる構造がありますね。
顧客満足を追求するチームワーク
Q.企業の組織づくりで気になったポイントをお聞かせください。
加藤:アジャイル開発をしているチームの組織でとても参考になったのが「Pizza Team」です。1枚のピザを分け合える程度の人数(6-8人)が1つのプロジェクトチームになって、アイデアからプロトタイプの制作、検証を行うまでのPoC(Proof of Concept:概念実証)を3カ月で回すと聞きました。変化のスピードが速いこの時代ならではの仕事の進め方ですね。
丹羽:採用の条件も、優秀な人よりチームワークを大切にできる人、助け合える人だと言っていましたね。
加藤:プロジェクトチームを結束させているのがCustomer Obsession(顧客満足へのこだわり)のカルチャーです。エンジニアもデザイナーもみな、評価軸は「どれだけ生産したか」ではなく「どれだけ顧客を満足させられたか」。平均勤続年数2年で企業へのロイヤリティ(忠誠心)は低い現地でも、採用時点で自社のカルチャーにフィットできるかはしっかり見極められるようです。
稲垣:スタンフォード大学の研究員の方から聞いた話によると”Every problem is an opportunity.”の標語があって。社会の課題をビジネスで解決していくマインドが学生時代から根付いているのだと感じましたね。だからこそ、同じミッションに向かっていくプロジェクトチームがチームワークを持って結束できるのかもしれませんね。
今回視察したアメリカ西海岸はITの最先端の地なので、全てを真似できるとはさすがに思っていませんが、どんな組織もボトムアップで変えていく必要があるんだろうと感じました。トップが変わるのを待っていてはなかなか変えていけません。「決まりが無いから確認します」ではなく「決まりがないからやっていいと解釈しました」でスピード感を持ってやってしまうのも一つ。突き上げていくのも下の役割かなと。
加藤:裁量を次の世代に渡していくことが上の世代には必要ですね。人材育成も投資なので、ミッションやカルチャーに共感してくれる若い世代にどんどん権限を譲っていかないといけませんね。
志を共にする仲間とこの街を盛り上げていく
Q.イノベーション創出・新規事業開発を促進させるために、名古屋エリアで官民連携して取り組んでいきたいことをお聞かせください。
丹羽:エコシステムが成熟していない今は、まず行政が旗を振り、他のエリアに名古屋の魅力を発信して人材・企業が集まる街として名古屋を元気にしていきたいですね。
稲垣:日本の中にいると、つい東京に目が行ってしまうのですが、東京を目指すのではなく常に世界に目を向けてやっていきたいですね。
加藤:事前の準備も大変でしたでしょうし、リスクも色々とあったかと思いますが、市として今回のようなミッションを実施していただけたのはとてもありがたいと感じますね。
他の国や地域からも学んでみたい気持ちもあり、産・官だけでなく学も交えてこんな取り組みをもっと増やして、日本を元気にしていきたいですね。
インタビュー第1弾の藤田氏が指摘されたように、名古屋にスタートアップのエコシステムを構築するのは急務です。名古屋市も本ミッションを通して、本場のエコシステムの視察で得られた経験を生かし、令和2年度は「スタートアップ企業海外連携促進事業」として、愛知県等とコンソーシアムを立ち上げ、当地域スタートアップ企業等の海外事業展開及び招へいした海外スタートアップ企業と当地域ものづくり企業等とのビジネスマッチングを支援していきます。
本ミッションに参加いただいたような、やる気あふれる地元企業が、名古屋には沢山あります。これら企業の皆様とともに、この地域を盛り上げ、世界的に誇れるようなスタートアップエコシステムを構築していきますので、これからの名古屋にご期待ください。