ドイツ発、名古屋で存在感を増すグローバル企業。ユニークな技術と発想で日本の産業界を刺激していく。

ベッコフオートメーション株式会社 代表取締役社長
川野 俊充氏

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「Simple is best」、「業界の非常識」と言われる独自の技術。

Q.御社の事業内容をお聞かせください

「ベッコフ」はPC制御を専業とするドイツの制御機器メーカーで、世界中に35の支社があり、代理店を含めると世界75カ国以上に展開しています。『Ether CAT』という産業用イーサネット規格や『Twin CAT』という制御ソフトウェアの開発元として知られており、日本支社ではそれらを主軸とした制御機器の輸入と販売を行っています。私たちはベッコフの制御技術を紹介し活用してもらうことで、日本の産業界に貢献しています。

Q.「制御技術」についてもう少し具体的に教えていただけますか。

制御技術とは、工場にあるような産業用機械や設備を自動化するために必要な‘頭脳’に相当する部分です。コントローラーと呼ばれる機器に実装されます。

例えば、さまざまなモーターを動かしてロボットのアームを動かす中で、温度や圧力、振動など現場の情報を逐次取り込んで、状況に応じた動きをさせている光景をご覧になったことがあると思います。ロボットだけでなく、ものづくりの現場で使われる工作機械や射出成形機、包装機器、3Dプリンター等には、情報を取得する「センサー」と動きの指令を与える「アクチュエーター」がついていて、その両方があってはじめて「機械が自動で動く」ということになります。

そういった情報入力や処理をして、モーターなどに動きを指令するための、機械にとって頭脳の部分(コントローラー)に、ちょっとユニークな技術を持っているのが弊社製品の特徴です。一般的には、産業用ロボットにはロボットコントローラーというハードウェア、射出成形機にはPLCと呼ばれる制御機器、また工作機械にはNC装置と呼ばれる専用の制御機器、というように、それぞれ専用のハードウェアが必要です。ところがベッコフの技術を使えば、ウィンドウズの産業用パソコンにソフトウェアを入れることにより、単一のハードウェアにまとめることが可能となるのです。

Q.川野社長がベッコフに参画したエピソードをお聞かせください。

ベッコフの要素技術である『Ether CAT』や『Twin CAT』にあるCATは、「Control Automation Technology」の略で、自動制御技術を意味します。
私が日本支社に参画する前にドイツ本社でオーナーのハンス・べッコフ氏からこれら要素技術の説明を聞いたとき、「実に美しい」と感銘を受けました。非常にシンプルな動作原理で無駄がない。サイエンスの美しさがそこにある、と感じたのです。

複雑になりがちな産業用の規格や要素技術の分野で、汎用の技術を活用してここまでの精度と性能を出せるというこの技術は、世界のどこででも使われる可能性を秘めている、と思いました。「日本の産業機器のマーケットは、品質・性能・精度において世界で一番お客様からの要求度が高く、同業他社も切磋琢磨して機能と性能の向上にしのぎを削っている市場だ。そこでベッコフの製品が通用するという実績ができれば、世界のどこでも売れる自信になる」、そう話すベッコフ氏に共感して参画を決めました。2011年に⽇本法人を横浜オフィスとして⽴ち上げ、2017年に名古屋オフィスを開設し、現在に⾄ります。

有形・無形の支援を得て、スタート地点に立つことができた。

Q.横浜本社で次の進出先が名古屋、その狙いは?

一番の理由は「ニーズに応えて」です。これまで仕事上の引き合いやお付き合いはずっとありましが、「近くにサポートしてくれる拠点を作って欲しい」などの要望を中部エリアのさまざまな企業から受けるようになり、2017年に名古屋オフィスを開設しました。

Q.名古屋市経済局イノベーション推進部 産業立地交流室とはどのようにつながったのでしょうか。

横浜で⽇本法人を⽴ち上げる際に、ジェトロ本部で3ヶ月オフィススペースを無料で使わせていただいたのですが、名古屋にもそういったサポートがあると聞き、名古屋市のプログラムを紹介してもらいました。「産業立地促進補助金」の制度を使って3ヶ月分の家賃相当を助成していただきました。
現在のオフィスを借りることができたのも市のサポートがあってのことですし、地元の人を採用するにはどうしたらいいか、など人材集めについても相談に乗っていただきました。また名古屋オフィス設立時に地元メディアとつながれるよう記者会見の場を用意してくださったことは本当にありがたかったです。地元とのつながりや人材との接点、会社への信用というのは紹介から始まる、ということを改めて実感しました。助成金のみならず、この無形の財産を得られたことが何よりの立ち上げ支援だったとしみじみ感じています。

Q.名古屋の魅力と、名古屋でビジネスを展開する際に苦労された点について。

ビジネスにおける魅力は、何より「ものづくり企業が集約している」ことです。一方で、地元愛が強い方々の懐に飛び込んで身内のような信頼関係を築くのに10年かかった、という実感もあり(笑)。我々のような外資系企業が、単純に価格表を見せて「買いませんか」というスタンスではダメだな、ということです。現場では皆さんとても厳しいですし、容赦なく高い要求をしてくる。エンジニア同士、徹底的に検証して技術を突き詰めることで共に高みをめざす、そんなイメージです。特に品質に対するこだわりや、問題解決、そして「改善」ということに対するプライドと情熱が、彼らの行動原理の中に組み込まれている。そこを指しては、うちのオーナーも「日本企業に学ぶべきだ」と常々言っています。

常識を疑い、柔軟な発想でピンチをチャンスに変えていく。

Q.人材確保のために実行されたアイデアについてお聞かせください。

人材の採用は日常的に苦労していまして…「技術への知見があり、営業ができて英語ができる方」を採用したいと思っても、そもそも応募者が少ない。ところが最近ではありがたいことに、日本語が堪能な海外エンジニアからの応募が増えています。外国人ですが日本検定1級を持っていたりして、日本語が堪能なうえに英語もうまいし、ベトナム語にマレー語、C言語などのコンピューター言語など合わせると一体何ヶ国語しゃべれるの、みたいな。そういう技術者たちが活躍しているのを目の当たりにすると、彼らが活躍できる環境をいかに企業として提供できるかが勝負だな、とこちらも刺激を受けます。また以前は地域を限定し募集していた採用面においても、「我々の技術に興味があって業界経験があり、考え方やカルチャーが合う方であれば性別、年齢、国籍、住む場所も問いません」と変えたところ、出会える人の数が圧倒的に増えました。また社員の中には、「リモートで仕事ができるなら海外に引越します」という人まで出てきて(笑)。

働き方も考え方も「常識を疑う」ことができるようになったので、「お客様への価値提供につながるならば、臆することなく提案をする」ことをより意識するようになりました。ピンチをチャンスに変えて共に乗り越えていく、という発想です。災害や気候変動など、どんな状況になっても我々に何ができるか、何をすべきかを考えて力を合わせる。それを平常運転の一部だと捉えることができるような柔らかい頭を持ち続けることが大事かな、と思っています。

Q.横浜から名古屋に続き、次の拠点へのビジョンは?

ロケーションフリー」のコンセプトのもと、採用したい技術者が大阪在住者であったため、昨年の9月にサテライトオフィスを大阪に立ち上げました。次に入社する人が例えば福岡在住者なら、じゃ福岡に、そんなやり方ですね。

Q.「人ありき」の発想ですね。

これまでのように「まずオフィスを立ち上げて、そこに人を集める」ことが難しくなっています。であれば、人を見つけてその人がいる場所にオフィスを構えましょう、という発想の方が自然だと気付きました。シンプルというか、実はその方が合理的なんじゃないか、と。「この人と一緒に仕事をしたいと思うかどうか」それに尽きますね。とにかくいいアイデアを思いついたら、まずは試してうまくいかなかったら改良して。それを繰り返していくだけです。

産業機器とAIの融合で、新しい付加価値を生み出していく。

Q.川野社長のこれからの挑戦は?

「共創ラボ」、オープンイノベーションの場を持ちたいです。中部地区の伝統ある先進的な日本の大企業と、我々のようにちょっと変わった、とんがった海外の企業が一緒に組んで、今まで誰もやったことがないような取り組みをしたい。大枠でいうと、「AIを産業機器に入れる」という取り組みですね。

5年ほど前の事例になりますが、市内のベンチャー企業の一角を借りて、エンジニアが自由な発想で新たな試みをする、というスペースを設けて、そこで模倣学習を使って学ぶロボットを、デンソーウェーブさんやパートナー企業・大学と共に作りました。草案段階のロボットで、外見は仰々しいですが、やることはタオルを畳んだり、サラダを盛り付けたり。人間でやった方が早いことではあるのですが(笑)。技術的には、産業ロボットは設計図(データ)があるものを扱うのは得意なんですが、「柔軟体不定形物」という、柔らかいものや形がかわってしまうものはデータがないのですごく難しいんです。さまざまなセンサーを入れて、360度カメラから入ってくる視覚情報を使って深層学習させ、時事刻々変わっていく状況を覚えるAIを使って、プログラミングでは表現できない動作をロボットにさせる、という取り組みでした。

VRデバイスをつけて人がコントローラーで操作するとロボットが真似をして、その情報を使って学習をする。いったん学習ができると操作をする人がいなくてもロボット自身で行える、というものです。当時は展示会向けの目玉づくりのアイデアでしたが、5年経った現在ではデンソーウェーブさんのロボット技術のひとつとして採用されています。

このように、AIと産業機器のさまざまな組み合わせで‘世界初’の事例に取り組んでいきたいです。この機械とこのAIを組み合わせるのは初めて、もしくはこの現場に取り入れるのは初めて、のように「組み合わせとしては世界初」のものをやりたいなと。フロンティア精神で、とんがったところを出していきたい。こういった試みはオンラインやリモートではできないので、名古屋には名古屋のラボを作りたいし、東京には東京のラボを作りたい。そういう場を核にして、常に顧客と我々が何か技術的に先進的で面白いことを試みている、という状況を常に作ることができれば、ビジネスはあとからついてくる、と信じています。