ナゴヤの面白さと出会った広報の達人、 人と人とが'かすがう'チャンスを日本中へ。

春日井製菓販売株式会社 おかしな実験室 室長
原 智彦氏

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「おかしな実験室」の仕掛け人、原さんと春日井製菓との出会い。

「友達の誕生日にサプライズ企画を考えるときや、好きな人を想うとき。純粋にその人の笑顔を思い浮かべるでしょ?」。広報のプロの口から紡ぎ出されるのは温かく、身近で馴染みのある言葉たち。人と人、人とビジネスをつなぐ春日井製菓販売(株) おかしな実験室 室長の原さんに、名古屋のビジネス界隈の面白さを語ってもらいました。

Q.御社の事業内容と「おかしな実験室」についてお聞かせください。

春日井製菓(株)は1928 年創業、名古屋市西区に本社を構える中堅の菓子製造メーカーです。キャンディ、グミ、豆菓子、ラムネ、金平糖やゼリービーンズ等を作って販売する機能を持ち、社員は約600名、うち半数以上が工場で生産に携わっています。営業の支店が仙台、東京、名古屋、大阪、福岡にあり、愛知県の名古屋市と春日井市、兵庫県の相生市にも工場があります。
春日井製菓販売(株)は、2016年に春日井製菓(株)より分社化し、菓子の開発・販売を行っています。

私は2018年に広報の部門長として春日井製菓販売に入社しました。もともと埼玉の出身で、仕事のキャリアとしては8社目。外資系の広告会社に在籍していたときのお客さんだった方から「春日井製菓が東京に新組織をつくるから、広報人材を紹介して欲しい」と頼まれたことが、出会いのきっかけです。人の紹介を進めていくうちに、老舗企業が変わろうとしていることに共感し、「自分と違う考えの人と仕事がしたい」と話す社長(当時)の人柄に惹かれ、「この方と一緒に働いてみたい」と私自身が思うようになり、入社を決めました。

「おかしな実験室」は、2022年2月にマーケティング部から独立した新部署です。「ネタづくり・ファンづくり・きっかけづくりを通じて、会社と社会を明るくしていこう!」と標榜しています。面白くて笑顔につながる(おかしな)、新しい挑戦をする(実験)部署、といったところです。

‘可能性’に気づき、‘意志’にみずから火をつけられるように。

Q.「おかしな実験室」新設の経緯を教えてください。

企業名や商品名の検索件数が同業他社に比べてとても低かったので、関心を持たれていないのかな、と思いました。そこで入社3ヶ月目に「スナックかすがい」というトークイベントを立ち上げたんです。さまざまな分野で活躍する方をゲストに招き、お菓子を通して‘かすがう(交流する)’月一回の大人の社交場で、グリーン豆とビールが食べ飲み放題(笑)。「子はかすがい」というフレーズでお馴染みの「鎹(かすがい)」は、2つの木材をつなぐコの字型にまがった金具のこと。転じて「人と人とをつなぎとめるもの」という意味で使われる言葉を冠した集いの場です。3回目くらいから、参加してくれたお客さんに「何か一緒に仕事がしたい」と言われることが多くなり、いろんな方が力を貸してくれました。面白いことをやると、面白い人が集まるんですね。やる気スイッチグループさんとコラボしたラムネのパッケージ改変もその一つです。

キャンディ、ラムネに豆菓子…と昭和から続く多くのヒット商品を抱えながらも近年は売上の伸びが鈍化しており、今の事業の現状打破と、未来の事業の種まきが春日井製菓に必要だと思い、経営陣に「新しい試みに新しい布陣で臨むチームを作らせてほしい」と提案しました。

その際にこだわったのが、社内公募でメンバーを集めること。応募ゼロと心配してくれた人もいましたが、結果的に工場からの3人を含む5人が「変化」を求めて手を挙げてくれて、今年5月に6人の所帯で船出しました。

Q.新部署の立ち上げ時、 原さんの中でビジョンは明確だったのでしょうか。

はい。公募時にこの部署の定義を公表しまして、求める人物像を「サービス精神と向上心が旺盛な‘明るく元気な妄想家’」と明示しました。すると「仕事内容は全然わからないけど、‘妄想家’の3文字は自分のことだと思った」という応募者もいて。「変わりたい、変わらなきゃ」と思っている人たちが、何か新しいことができそうだ、という期待を抱いてくれたようです。

現在、正式配属となり約2ヶ月が経ったところですが、メンバーの皆はメキメキと才能を発揮しています。6月から業務窓口をそれぞれ割り振り、徐々にオーナーシップと専門性を高めているところです。

いろんな角度から弊社に興味を持ってもらい、窓口である彼ら彼女らのファンを増やしていけば、仕事は自然と面白くなりますよね。つながるために種をまき、光と水を注げば、自ら芽吹いて育っていく。私の役割は、メンバーが自分の本領に気づき、発揮する方法を提供することかな、と思っています。でもここで間違えちゃいけないのが、「変わりたいと心から思っている人しか変われない」ということ。動機がなければ‘余計なお世話’ですから。

この部署のテーマは「本領(=その人特有の力)を発揮する」。人はそれぞれ人生の局面、例えば世代や生活環境で、触れるものが全然違う。20 代のメンバーの方がTikTok の使い方に長けているなら私は教わる、といったように、上司とか部下という言葉による垣根からまずは取り外しました。

人に‘上’や‘下’とつけると思考と行動が止まる。「部下なのでできません」「上司なのに何でやってくれないんですか」とか。もちろん有事には室長として矢面に立ち、責任もとりますが、言葉による呪縛を解きたいんです。あとはネーミングも工夫しています。週に1回の進捗確認会議は「おか験談話室」、外部PRブレーンとの会議は「PRどうする?会議」、社内チャットのチャンネル名も「コミュニティの部屋」とか。スケジュールはPCでもスマホでも毎日見ますから、楽しい言葉にしよう、と。ゼロ円でできますし、それは何のためにやるのか、も明確になりますしね。

おかしな実験室のメンバーは、3人が名古屋、1人は兵庫県の相生市、もう1人は同じく兵庫県の尼崎市、そして東京の私、です。コロナの2年間で働き方への意識が変わったため、場所の制約をなくしてみようという実験です。「未経験の仕事でただでさえ不安なのに、リモート会議では心が通わないだろう。本当に大丈夫なのか?」と心配されるのですが、そう言う方ほど、カメラOFF、マスクしたまま無表情、喜怒哀楽も出さずにいきなり本題に入り、用件だけ話して終了だったりします。そりゃ心なんて通わないですよね、と(笑)。おかしな実験室は週1回オンラインで談話室、月1回私とのオンライン1on1と、名古屋に集まって行う共同作業などを織り交ぜています。今のところ全員が快適と言ってくれています。

視点を少し外して、ʻリフレーミングʼしてみる

Q.ゼロ→イチの部署では、どんなことから着手されたのでしょうか。

弊社の事業領域は菓子製造、お客さんは問屋さん、販売先は小売店さん、職場はいつもの部屋、とこれまで当たり前だと思っていた固定概念を‘疑ってみる’ことから始めました。例えばスーパーマーケットは全国に約2万1千軒でコンビニは約5万5千軒。コンビニさんに採用してもらうのはとても難しくて、売れなければあっという間に棚から落ちていく。一方で全国の寺社仏閣は約15万軒、タクシーは約18万台、飲食店は約77 万5千件もあるんです。つまり私たちが「ここしかない」と思っているマーケット以外にも、まだたくさん可能性があるのでは?という視点です。例えば約11 万軒あると言われるスナックでは、カラオケ歌ってお酒飲んで、おつまみを食べるじゃないですか。カラオケ後にのどあめ、お酒飲んだらブドウ糖(ラムネ)、おつまみにはわさびグリーン豆、つぶグミは蒸留酒にもすごく合うしグラスに盛ると華やかになる。そして帰りに弊社のキャンディ「花のくちづけ」をあげれば、お客さんはいい夢見れるじゃないですか(笑) 。

このようにリフレーミング、それまでの思い込みを少し外すと「世界は広い」と気づく。「食べる人たち」の気持ちになって考えてみることは、「ダイレクトto コンシューマー」ですし、そういう活動を通して‘ファンづくり’を実行していける人が集うのが「おかしな実験室」です。SNS やメディアリレーションズ、イベントなど、体験領域を推し進めていくことと、新たな事業を創造することが業務の本質になりますが、自分たちだけの繁栄をめざすのではなく、「みんなと広くかすがって、その人の成果になる」という’利他’の考えを大切にしています。

変化の‘きっかけ’づくり、ルーティンを変えてみる。

Q. お話を聞いていると、原さんご自身が触媒みたいな感じですね。

そうありたいと心がけているのでうれしいです。また、人が集まりやすい名古屋駅直結のJPタワーにあるコワーキングスペースを法人会員として活用しています。同じ人、同じ場所、同じ空間、同じルールで違う結果を出せ、は無理なので、結果は何になるかはわからないけど、ルーティンを違えてみる、という‘外し’の試みです。帰り道を変えてみる、着ている服の色を変えてみる、言葉の選び方を変えてみる等、小さなところから変えていければ、その先が違う風景になるはずですから

Q. 原さんが感じる名古屋の魅力や特性は?

日本のまんなかにある、という地理的なことに加えて、私は‘名古屋めし’に底知れぬクリエイティビティを感じています。例えば「あんかけスパ」とか「小倉トースト」のように「え?それとそれを組み合わせちゃうの?」みたいなところ。それと名古屋の人たちからすごく感じる‘名古屋愛’。でも謙遜なのか、名古屋は田舎ですから、とかちょっと卑下する表現をするので「じゃ東京に引越せばいいじゃん」と突っ込むと「いやいや、名古屋が一番いいんです!」と言ってみたり(笑)。

既存のものを組み合わせて新たなものを生み出してみて、それを面白がるところが、私にとっての名古屋の魅力です。

以前福岡本社の会社で仕事をしていた時に感じた「来るもの拒まず去るもの追わず」なオープンな気質とは違いますが、名古屋という土地柄は、一見奥ゆかしく見えても、いざ中へ入ってみると新しいものへの拒否感はあまり感じませんし、むしろ小さな変化を面白がる底力がある。名古屋というエリアは「組み合わせやすい」「つながりやすい」と感じています。

Q. 全国さまざまなエリアでお仕事されてきた原さんならではの視点ですね。

私は「あるもの活かし」という言葉が好きなんです。ないものをねだるのではなく、あるものに光を当てて大切に伸ばしていく。私のような転職者には最初から居場所はありません。でも仕事って、大好きな友達の誕生日をサプライズでいかに喜びで泣かせるか、みたいなところがあるじゃないですか。その気持ちを大切に、今あるモノや今いる人に感謝して長所を伸ばそうとすれば、自分の居場所もつながりも作れると信じています。

Q. 名古屋という商圏に興味を持たれている方にメッセージをお願いします。

名古屋で面白いことをするぞ!という意気込みがあり、かつ居場所は自分で作る、という気概を持った人たちにオススメしたいです。少しおっとりとして寛容な気質、一方で責任感が強くプライドが高いところ、流行り物に敏感だけど、熱が冷めたらサッとひくところなど、付き合うほどに味わい深く、かつ魅力的な人が多くてビジネスの場としても可能性に満ちていると思います。