20年の構想を経て、茨城のIT企業が名古屋を第二の創業の地に選んだ理由〜離職率3%・人間力の組織が、製造業の聖地で挑む100億へのロードマップ〜

株式会社ユードム
代表取締役社長
森 淳一氏

取締役 常務執行役員
渡邉 悟司氏

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株式会社ユードムにとって、今回の名古屋進出は20年来の悲願でした。実はこれまでにも2度、拠点開設を検討しながらも、諸条件が整わず断念してきた経緯があります。まさに3度目の正直として結実した今回の進出について、代表取締役社長の森淳一氏は次のように語ります。
「2026年で創業50周年を迎えますが、今回の進出は単なる拠点増設ではありません。2度の挫折を経験し、ようやくすべてのタイミングが整った今、単に拠点を増やすということではなく、ここを足掛かりに売上100億という高い目標を目指す、新しいスタートだと思っています」
茨城・水戸で培った「製造業の品質」というDNAを携え、なぜ今、製造業の聖地である名古屋へ挑むのか。離職率3%を誇る強固な組織を築き上げた同社が、この地を「第二の創業地」と位置付け、新たなステージへと踏み出すまでの軌跡をお聞きしました。

水戸と名古屋を繋ぐ「製造業の品質」という共通言語

  • 代表取締役社長 森 淳一氏

ーー:福岡や大阪といった都市がある中で、あえて名古屋を「次の一手」に選んだ理由は何だったのでしょうか。
森氏:一番は、我々の本拠地である茨城との「産業的な親和性」です。茨城は日立製作所さんを中心とした製造業の街であり、名古屋もまた日本の製造業の中心地です。我々は長年、製造業特有の厳しい品質基準の中で、お客様に鍛え上げられてきました。その「品質を重んじるDNA」を武器に挑戦するなら、やはり名古屋しかないという結論に自然と行き着いたんです。
渡邉氏:現場の肌感覚としても、その親和性は想像以上でした。昨年出展した展示会「名古屋ネプコン ジャパン」では、発売前の自社製品に対して、驚くほど熱量の高い反応をいただいたんです。東京の展示会とは違い、技術的な核心に触れる議論が多く、現地の商社の方からも「トヨタグループに売り歩きたい」とパートナー契約の打診をいただくほどでした。
森氏:加えて、個人的な「縁」も大きかったですね。実は私の妻が名古屋の出身で、昔から土地勘がありました。名古屋の方々は土地に誇りを持っていて、仕事以外でも温かく接してくれます。そうした信頼関係を大切にする街の気質が、我々の社風にも合っていると感じたんです。
渡邉氏:名古屋には20年前からお付き合いのあるお客様も多く、いわば「ようやくユードムが来てくれた」と待っていただけている状態でした。戦略的な確信と、長年培ってきた人間関係。その両方が整ったからこその、満を持しての進出と言えます。

信頼が「芋づる式」に広がる、名古屋特有の紹介文化

  • 取締役 常務執行役員 渡邉 悟司氏      

ーー:実際に名古屋でビジネスを展開してみて、他の地域との違いを感じることはありますか?
渡邉氏:名古屋はとにかく、人を「紹介」してくれる文化がすごいですね。一度気に入ってもらえると、「この人に会ってみて」「あの会社ならこんなことができるよ」と、芋づる式に知り合いが増えていくんです。
森氏:他の地域、特に東京などでは、商流の上流から下流へという繋がりはあっても、横の繋がりでこれほど紹介してもらえることは珍しいと感じます。紹介する側に直接のメリットがなくても、「こっちに来てくれたら楽しいからいいよ」と、善意や横の繋がりで動いてくださる方が多いんです。
森氏:私の経験でも、名古屋や広島は「営業が難しい」と言われることがあります。最初は門を開くのが大変ですが、一度信頼されれば一気に親しくなれる。直接知らない相手でも、「あの人の紹介なら安心だ」という信頼の連鎖でビジネスが成り立っている側面は確かにありますね。
ーー:「信頼」が重要になるのですね。御社の社訓にも「相互信頼」という言葉がありますが、どのような姿勢でその信頼関係を築いていらっしゃるのでしょうか? 
森氏:「相互信頼」を築くためには、嘘をつかない、挨拶をきっちりする、立場を意識しすぎず業務全体が良くなるように提案する。こうした誠実な積み重ねが、名古屋の文化と非常に相性が良いのだと実感しています。
あと、その中でも我々が徹底しているのは、立場を意識しすぎないことです。茨城でもそうですが、大手企業の下で仕事をする際も、単なる「下請け」として控えるのではなく、上の会社と同じ目線で業務改善や提案を出し切る。「技術力」に裏打ちされた「人間力」の積み重ねこそが、名古屋という街で受け入れられる鍵だと感じています。

「1時間40分」が生む、絶妙なマネジメント距離

ーー:茨城や東京から名古屋となると、物理的な距離によるマネジメントの難しさは感じませんか?
渡邉氏:それが、実はあまりネックにはなっていないんです。東京の拠点から本社の水戸まで移動するのに約1時間40分かかりますが、東京から名古屋も新幹線でちょうど1時間40分ほど。時間だけで言えば、東京は中間地点のような感覚なんです。
森氏:みんな移動し慣れているせいか、この時間を負担だとは言わないですね。むしろ、気持ちを切り替えるのにちょうどいい時間だと言っているくらいです。
渡邉氏:近すぎるとゆっくりする時間がなくなっちゃうから、今の1時間40分が欲しい、なんて声もあるほどで(笑)。東海道新幹線は揺れも少ないですし、休憩したり考えをまとめたりするのに最適な環境なんです。
森氏:将来リニアが通れば、品川から名古屋まで40分程度になると言われています。そうなれば水戸よりも近くなりますが、今のこの「1時間40分」という距離感が、自立した組織を作る上でも、個人のリフレッシュという面でも、意外とポジティブに働いていますね。

名古屋拠点を「次世代リーダー」の育成の場にする

ーー:名古屋事業所の立ち上げにあたって、若手社員を積極的に登用されているのが印象的です。ここにはどのような狙いがあるのでしょうか。
森氏:物理的な距離があることを、あえて「自立」のチャンスにしたいと考えています。本社に近いと、どうしても何かあればすぐに相談できてしまいますが、名古屋という離れた場所であれば、自分たちで判断し、自分たちで動かざるを得ない。
渡邉氏:今回、あえて若手に決裁権も渡しているんですよね。自分たちがリーダーとしてこの拠点を動かしているんだ、という自覚を持ってほしいという思いがあります。
森氏:そう。名古屋拠点は、将来の幹部候補を育てる「育成の場」にしたいんです。今も新卒1名を名古屋採用で内定していますが、まずは水戸でしっかりと修行を積み、その後名古屋で自立してもらう。そうした「拠点を跨いだ成長の循環」を作ることが、会社全体の活気に繋がると信じています。

離職率3%を実現した「対話」

森氏:実は、創業以来の理念である「社員の幸せ」という原点を、組織が忘れかけていた時期がありました。15年ほど成長が完全に停滞し、採用してもその分だけ辞めていく。従業員も売上も増えない「停滞期」が続いていたんです。
渡邉氏:優秀な若手が辞めていくのを目の当たりにし、営業としても「提案できる人がいない」という苦しい時期でしたね。
森氏:そこで私は役員になった翌年、20代と30代の社員全員に声をかけ、課題や不満を自由に話してもらう会を10回以上開催しました。私は創業者の息子という色眼鏡で見られることも自覚していましたが、逃げずに対話を続けました。
ーー:社員からはどのような声が出たのでしょうか。
森氏:最初は不満ばかりでした。しかし、「ただ不満を言うのはやめよう。何が悪くてどう改善すれば良くなるか、建設的な策を自分たちで作って経営に上げよう」と呼びかけたんです。できないことは理由を伝え、できることは即実行し、必ずフィードバックを返しました。

渡邉氏:その結果、目に見えて空気が変わりましたよね。
森氏:「この会社は将来を真剣に考えてくれる」という期待感が生まれ、離職率は8%から3%前後まで劇的に下がりました。この好循環が生まれてから、売上も10年で倍増しています。名古屋という新しい地でも、この「対話を通じた信頼」こそが、大きな目標(100億宣言)を目指す上での揺るぎない土台になると確信しています。

名古屋での採用という壁にどう立ち向かうか

ーー:名古屋進出において、経営層が最も懸念するのは「名古屋での採用」かと思います。この点についてはどうお考えですか?
渡邉氏:現地の会社からは、口を揃えて「名古屋での採用は大変だよ」と聞いています(笑)。大手企業が非常に多く、優秀な人材がそちらに流れてしまうという構造的な難しさがあるのは事実です。
森氏:ですが、我々も手をこまねいているわけではありません。すでに新卒で1名、名古屋の大学生を採用しました。。
渡邉氏:水戸では公共施設のネーミングライツを取得したり、プロバスケットボールチームのスポンサーを務めたりすることで、認知度が劇的に上がりました。その結果、学生の親御さんからも「ユードムなら安心だ」と言っていただけるようになっています。
森氏:名古屋でも、ただ建物の名前に社名を入れるだけでなく、地元の皆さんが「面白い」と思えるようなイベントや投資を通じて、地域に根ざした認知度向上を狙っていきたいと考えています。

100億宣言の達成へ、地域企業と協力して挑む

ーー:御社が掲げられている「100億宣言※」において、名古屋拠点はどのような役割を果たすのでしょうか。
渡邉氏:名古屋は、我々の成長を牽引する極めて重要な拠点です。ただ、自社だけで大きくなることだけが正解だとは思っていません。地域の会社の皆さんと手を取り合い、共に売上を増やしていく形を目指しています。
森氏:製造業が盛んなこの地域には、事業承継などの課題を抱える同業他社さんも多くいらっしゃいます。我々の考え方に共感し、「良い縁だね」と思っていただけるようなM&Aも含め、多角的な広がりを作っていきたいですね。
茨城で生まれ、東京で育ち、そして今、名古屋で新しい勝負に出る。拠点を増やすことは、新しいポストを作り、社員にさらなる成長の機会を提供することでもあります。それがひいては「社員の幸せ」に繋がると信じています。
※100億宣言:中小企業庁と中小企業基盤整備機構が2025年5月から開始した制度。中小企業が飛躍的成長を遂げるために、自ら「売上高100億円」という野心的な目標を宣言し、その実現に向けた取り組みを行うものである。